夢から覺めぬ・・・
塩原 経央
草はらに膝を抱へて見てゐたり、
さみどりににほひ立つ丘の上(へ)の紺青の空。
白き帆の船滑りゆく、
かくも高き遥かなる海に、
知恵の如き深さのありて、
無量の優しさに裹(つつ)まれてあらば、
けふ傷つくを悔いはせじ。
結ばざる夢つむぎゐる、
かの高空行く春風の仕事を、
我は膝抱へ見上げてゐたり。
母よ、きのふもけふもあしたも、
とはなる御身の口許に笑み湛へ、
春風よりもなほ優しきみ胸に、
我をくるみてくれよかし。
「永遠」にあくがるゝせつなき、
我が物ぐるほしき紺青の虚空(そら)に光りゐる鳥の、
溶けてゆく、流れてゆく青の形の揺らぎ。
きのふの欠けてゆくもの、
けふのまた過ぎてゆくふたしかなるもの。
されど、そこに咲かむとせし、
つましき花の笑みありけるものを。
あくがるゝ「永遠」の中にひきつりて、
海を泳ぐ筋肉の動きさへ、
レプリカに見紛ふばかり。
海底(うなぞこ)にて時間(とき)は海鼠の眠りに就き、
なべて覚めぬ夢の如くありきと、
移ろふもののうつたへを、
我はなどて丸呑みに嚥下せむとするや。
(四・四・五=十六・十一・九改作)