ばら            塩原 経央   

余はゐたり、廃屋に。
暮しの断たれし樫の卓子(テーブル)。
余は見てゐたり、そが陰に、
円(まろ)き天窓より光下るを。

光浴びゐたる、
錆びつきしのこぎり。
埃つぽき荒縄。余ははた、
扉(ドア)の外れし草の庭に、
光の沸きて弾くるを眺む。

窓の破れの外、
とらへどころもなく明るき光。
余はゐたり、廃屋に。
されど、好む誰やはあらむ、
廃屋よりそが光にあくがるるを。

記憶の花瓶に挿ししばら。そは、
写真ほどの足の止め方もせで、
ずり落つ、屋根のスレート瓦の如。
記憶の花瓶よりずり落つ、
ああ、その白きばらよ。

(四・三・二五=一六・六・一○(改作)

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