春の陽炎 塩原 経央 紺青に染上げらるゝ家並み。 テレビアンテナに刺さるゝ、 花の香りのそこはかなさ。 月ゑひて妖しくうるみ、 うるみゐたる春の陽炎。 ぽつてりと夜にふくらむ、 淡き白き花の明かり。 蜜吸はせ花わなゝきぬ。 翅(はね)を擦る蜂の身もだえ、 身もだえゐたる春の陽炎。 草はしとゞ濡れそぼち、 寝そべりゐたる裸婦の、 とりとめもなき、 春のそよぎ。 生ぬるき靄のため息。 月へゆく裸婦横たはる白き帆の船。 微熱にも似し、 春のむせるが如き陽炎。 (十六・三・十改作)
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