花の下 塩原 経央 淡きものに手を触るゝ、 その人の目にうるみ見き。 酩酊に似る心のゆらぎ、 そはそも何にてあらむ。 流さるゝものに手を差伸べ、 朱ふくむほほ。 むせかへる花の失神、 そはそも何にてあらむ。 夕闇にうつむき、 あるかなきかの花のかそけさ。 なしをらせそと、花の下に 顫(ふる)へゐし人にわれは言はむ。 ほこりかに咲くふくよかなる桜のふくらみに、 絹の糸にて玻璃の物語を編まむと。 すきとほる淡きものを分かち合ふ、 われらにさある深き知恵のよしやあらば。 (十六・三・十改作)
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