破局ノ圖           塩原 経央   

 日中の青天 俄に異變生じて、
 諸處の黒龍 競(きほ)ひて蝟集す。
 風は雨を呼び 雨は風を集め、
 天割れて閃光を山河に走らしむ。

 山は鳴動し 水は斜面を迸つて、
 泥流 樹木を薙ぎ倒して流れ下る。
 轉(まろ)び落つる土石 崖下の家屋を毀(こぼ)ち、
 人を埋づめて激流へと運び去る。

 錐立て鎗立つる高樓立並ぶ魔都、
 水も無き街路を儚げに漂流するは何ぞ。
 風も無き虚空に蝶の如く舞上り、
 行方定めず何處(いづく)にか退場する日本人とは何ぞ。

 激浪 赤き舌を伸ばして岸辺を削り、
 橋梁 水壓に耐ヘ得ず横倒しに崩れ流る。
 村落 ひと呑みに呑まるる自然の猛威に、
 人のただに茫然たるに変らじ。
                                             (一五・九・二十八)

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