雷 斧
塩原 経央
雲は鈍色(にびいろ)に低く垂れ罩(こ)め、
雨季 将(まさ)に至らんとす。
今日の田夫 苗を植うるに耕運機を以てするも、
百里の田圃(でんぽ)揃つて嫩翠(どんすい)。
雷鳴 初め遠き虚空を豆を熬(い)るが如く、
来つて鉄橋を渡る車輪の軋みに変らず。
夕雨 田水を打ち、
苗揺れ 身をよぢりさんざめく。
一閃 雲間に白龍生じ、
横に走るや忽ち迸流(はうりう)して斜めに散ず。
突風 黒き影となれる山より一撃すれば、
濛々たる雨 釘降るが如く押寄せ来る。
嗚呼 故国よ、わが祖霊宿る国土よ、余は知る
其の山河の潰(つひ)ゆるに手を仮(か)す者のいづちにあるやを。
口に善を唱えふる者は却て是(これ)善を損ひ、
平和を言ふ者は寧(むし)ろ故山を毀(こぼ)たずんばをらずと。
(十五・七・六)