幻の花                塩原 経央   

  かそけくも花のうへを風の吹くなり。
 柔肌のきめ持つ青き空の中ほど、
 ちぎれ雲ひと刷け光り、
 ともすればのみこまれがちに、
 あくがれてわれは見惚けてゐたり。

 花、そが赫きより彩りは溢れ出でて、
 はつかににじみ はつかに流れ、
 そはゆきて ゆきゆきてかへらざるに、
 ゆきくれて立尽すわが胸の、
 あえかなるゆらぎなるかな。

 われはきのふのわれに変らず。
 花よ、咲きてあれ、花畑に赫きて。
 さあらば光となりてわれは御身を裹まむと、
 御身の耳朶に口寄せて、
 われはかくつぶやきをせむものを。

 よしや御身 かの花畑の花にありせば、
 われは草のうへに寝ころびて、
 日がな一日歌ひ続けむ、
 明るき空に囀りゐたる、
 けふのひばりのその囀りの如くに。
                                      
                           (十五・九・十六)

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