春思

哀笛 嚠喨として春雲に響き渡り、

停頓せる時間は川の面に微かに戦ぐ。


想ひし人は尚息災なりや、

往きて帰らざる日月 渺として渺たり。


知らざりき 僻陬の湊に紅燈の巷ありて、

紅粉青黛 鼻腔を擽つて、終宵淫声洩るるありとは。


危ふい哉 稚戯 崖畔に足踏み外すことなきにしあらねば。

然はあれ 踏み外さざること今更に悔やむこと無きにあらぬを。


      前へ→

詞藻樓表紙へ               文語の苑表紙へ