「立葵」

 六月の晴天 山容はだらなり、
 林色 若翠わかみどりあり青碧あをみどりありまた深緑ふかみどりあり。

 碓水たいすい湍流たんりうに雲は千切ちぎれ、
 時に清風颯々さつさつとして蘆荻ろてきそよがす。

 嗟乎ああ 吾 氣を散ぜんと日の陰に沿うて散策すれば、
 菜圃さいほ一隅いちぐう ひと本の立葵たちあふひ咲けるに遇ふ。

 顔容がんように衰へのしるしありといへども、
 なほ嫋々でうでうとして また清艶なるを認む。

 足をとどめて遠き短き彼の日々に想ひをめぐらせば、
 哀情 忽ち器を溢れて 身はまさに溺れむと欲す。
    (平成十九年六月二十九日)


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