暑を除す
                 塩原 経央   

半覚して牀上(しやうじやう)に座し稍(やや)懶(ものう)きは、
昨夕の酒宴の疲れに非ず。
曇天 風死に絶えて熱気を孕み、
微恙(びやう) 朝七時の裏(うち)に存するが為なり。

飛雀 翼の重きこと石の錘(おもり)を下げたるに似て、
蓬蒿(ほうかう) 朝露を含みて猶渇きを覚ゆるが如し。
警鐘あり 遠く列車は往く車輪の軋り、
暑を避けて山行する旅客を運ぶならん。

駑蹇(どけん) 朝食を喫すれば其の余に為すべき事無く、
書斎に寝転びて読み止(さ)しの書を披(ひら)く。
固(もと)より頭は働かず 文字列忽ち毀(こぼ)れて、
大小の砂礫 不規則に浮遊するに任す。

発汗淋漓 蒸し風呂の如きに耐へ得るは、
啻(ただ)に夢に清流に游ぶのみ。
舟の上に緋毛氈を延べて酒缸(しゆかう)を開けば、
侍する仙女の柳腰 いとど優艶なり。

(平成十七年七月三十日)


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