春日 草を毟る
                 塩原 経央   


書を読むに倦みて庭に出づ。
塵埃舞ひ立つる春風ややに収まり、
鳥啄む処の油菜も嫩翠(どんすい)伸びやかなり。
屈(かゞ)みて草を毟(むし)れば地味に春色香り立つ。

額の汗を拭はんと立ち上がれば、
時ならぬ労働に驚きたる腰は重く、
両手を以て支ふるを要す。
天を仰ぐに光に亦春色帯ぶるを知る。

粗野なる行人あり。
歩み寄つて言ひて曰く、
我は草毟りの名人なれば、
二千円にて汝の労働に代はる事可なりと。

草を毟るは余が格別の愉(たの)しみとする処、
好意忝(かたじけ)く思へども不要の事と答ふれば、
今より旬日にして草の蔓延(はびこ)ること之に倍せん。
其節は六千円にて請け負ふが如何にと。

(平成十七年四月七日)

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