愛甲次郎 - 見えざる文化(最後の保証人) - 連載第三回・倫理を保証するもの
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見えざる文化(最後の保証人)


連載第三回 倫理を保証するもの


人の人を襲ふ人間生活の過酷なる現実、これを中東に限るべからず。海賊を恐れ洞窟に潜み生きながら蟹に足を食はれし越南の難民、持参金の不足をなじり嫁を焼く南亜細亜の習慣、欧米に教育を受けし故を以て知識人を撲殺せし文化大革命、ナチの拷問技術を再現せる第三世界の独裁者、何人も此等全て既に歴史に属したりと言ふを得ず。今日世界の到る処に生起する事象なり。かかる悲劇の何時わが身に降りかかるやも知れず。はたまた何人の何を以て自ら加害者となること非じと言ふを得ん。限界状況において一個の人間に期待すべき倫理的行動、そは何処にその保証を求むべきや。そは信仰なりとの声、わが耳朶を打つ。


スリランカの大使、嘗て鋭く我に問ふ。霊魂の不滅を信ぜざる者に如何にして信をおくべき。我これに答ふること能はざりき。


宗教を不合理として嫌ふもの、わが国に多し。然り。神を異にし且つ各々絶対性を主張し妥協を潔しとせずんば、狂信は狂信を呼び宗教戦争に及ぶこと枚挙に遑なし。その一点に於て宗教に対し否定的評価の生ずること故なしとせず。されど知るべし。個個の宗派に於ては神は人間の信頼関係の最後の保証人なり。


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