メモラーレ(カトリック祈祷文)                 山田 弘

思ひ起し給へ。
清らけきマリヤ。
見そなはす御母。
凡そ世に生まれ候ふ人にして、
御身の陰を恃み、
御慈しみを仰ぎ、
御取りなしを乞ひ奉り、
而して御救ひに預からざりし、
未だかつてこれなく候ふことを。
しもべ我、この言づてを命にて、
とこしへの乙女なる御母に縋り奉る。
御許にゐざり來たり、
御前にぬかづきて、
昨日も今日も祈りを捧ぐるのみ。
罪人なるしもべ我、
この咎を如何にか仕り候ふべき、
この嘆き如何にか仕り候ふべき。
ああ御身は
始めよりありつる尊き言の葉の御母。
我が阿漕なる願ひを蔑み給ふなかれ。
斥け給ふなかれ。
涙に暮るる賤の男(女)の
すべなき聲を聞こし召して、
御慰めを垂れ給はんことを。
斯くの如くにて候。 

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