兵燹詩艸 第二部その十 終戰後戰 終戰後の戰 鹽韻 仇告戰終停舶嚴 仇 戰 終るを告げ 舶を停むること嚴たり 何降勁卒氣炎炎 何ぞ降らん 勁卒 氣炎炎たり 忽諸殷殷奔雷襲 忽諸 殷殷 奔雷襲ふ 連射機鎗砲側殲 連射の機鎗 砲側をみなごろしす 語注 仇 敵 勁卒 強き兵 奔雷 激しき雷 炎炎 盛んなるさま 殷殷 雷の音のとどろくさま 機鎗 機關銃 聯隊砲と速射砲は海上輸送となりしが、その任を命ぜられし少尉は戰鬪に役に立たずと思はれしかと憤慨しをりぬ。全兵器の輸送を終へし少尉、最後の船に我が中隊の聯隊砲を積みて出港せり。途中、終戰の無電に接せしも航海を續け、温州沖に到りて國府軍に停船を命ぜられぬ。少尉應戰を命ぜしが、仰角高くして帆柱に命中せり。修正せんとせし間に機關銃にて狙撃せられ、砲側にありし少尉ら薙倒されぬ。船に乘移られ、倒れゐし將兵の既に死せしも、未だ息あるも海に投ぜられぬ。死せし一人に最後の學徒動員なる初年兵ありき。海に投ぜられし際に悲痛なる聲を上げ、必死に船に泳ぎ著かんとせしてふ死樣ぞ哀れなる。 殘りし兵らは捕虜となりしも、十月には釋放されて原隊に復歸し得たり。死せしは評判よき者のみなれば無益なる抵抗の惜しまる。停戰命令は即時戰鬪行動を停止すべし。但し停戰交渉成立に至る間、敵の來攻に方りて止むを得ざる自衞の爲の戰鬪行動は妨げずとありたり。停船に應ぜば武裝解除となるべし。砲を渡さば、降伏文書調印前の派遣軍の最も早き武裝解除てふ不名譽を荷ふ。そが耐へ難きならんも、勇敢なる隊長に率ゐられし故にかく運命に見舞はれし部下こそ憐れなれ。 ▼「詩藻樓」表紙へ戻 る ▼「文語の苑」表紙へ戻る |