「藤の花」 宿谷睦夫   「睡蓮の花」 宿谷睦夫

習志野の            相模灘
野邊の櫻は           臨む山邊を
早や散りて           踏み分けて
若葉の茂る           松の木陰に
 ―               ―   
今日彌生            佇めは
暮れ行く春に          黄泉平坂
遠近の             越へ渡り
甍を圍ふ            セーヌの邊
 ―              ― 
籬には             ジベルニー
歌の聖も            クロード・モネの
「年の内に           庭の池
幾日もあらじ」と        咲きし眞白な
―                   ―
惜しみたる           睡蓮の
上無き色の           花は卯月の
藤の花             伊豆の海
木々の葉搖する         青葉若葉の
―                ―
野邊渡る            生ひ茂る
微風吹かは           松の木陰の
早乙女か            池の面に
庭の籬に            見目麗しき
 ―               
佇みて             早乙女の
汝か梳る            唇染むる
黒髪の             紅の
靡くか如く           花と共にや
 ―               
風に搖れ咲く          庭に咲き初む

 反歌               反歌

野邊渡る            池の面に
微風吹かは           真白に映ゆる
藤の花             睡蓮の
習志野の野邊          花は卯月の 
庭に搖れ咲く          庭に咲き初む

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