『續・禹域遊吟』 其の七
興福寺 常熟 こうふくじ じやうじゆく
常熟に唐の常建の名詩にて知らるゝ破山寺を訪ふ。今は興福寺と名を變へて在り。市中に在れど門を入れば自づから靜寂の趣きを存す。
孟夏入香城 孟夏香城に入れば
風涼緑樹清
風涼しく緑樹清し
檐楹前後邃 檐楹前後に邃く
花木淺深明
花木淺深明らかなり
猶見一山勝 猶ほ一山の勝を見
如聞萬籟聲
萬籟の聲を聞くが如し
幽人往時意 幽人往時の意
覺得遠浮生
覺り得たり浮生に遠ざかるを
[庚]
○ 平成二十三年四月三十日作
*孟夏 初夏。
*香城 寺院を謂ふ。
*檐楹 軒と柱
*花木 常建の詩に「曲徑幽處に通じ、禪房花木深し」とあり。
*勝 すぐれたる景。
*幽人 常建を指す。
*浮生 俗世間。