『歐州紀行』 其の二十三完
中歐旅遊偶成 ちゅうおう りょいう ぐうせい
中歐旅行の最後にオーストリーへ入り、ザルツ・カンマーグートの古城に泊
す。男三人女八人の十一人にて、杯を擧げ、はや來年の旅行の計畫なり。
江貫中原天地 江は中原を貫き 天地く
觀光旬日足秋睛
觀光旬日 秋睛足る
舊封曾屬雙頭鷲 舊封曾て屬す 雙頭の鷲に
古蹟遍存千里程
古蹟遍く存す 千里の程
女八男三皆忘老
女八男三 皆 老を忘れ
水明山紫盡收睛 水明山紫 盡く睛(ひとみ)に收む
離筵今夜翠湖畔
離筵 今夜 翠湖の畔
擧酒先謀來歳行
酒を擧げ先づ謀る 來歳の行
[庚]
○ 平成十一年九月十三日作
*江 川。ここはドナウ川。
*中原 ここはヨーロッパの中部地域
をいふ。
*觀光 『易經』の語。「觀」の卦に、「國の光を觀る」とある。
*雙頭鷲 神聖ローマ、およびオーストリア皇帝の紋章。
*離筵 離別の宴會。
*翠湖 ここはフシュル湖。
*擧酒 乾杯する。