『歐州紀行』 其の十八
多瑙河舟遊 ドナウがは しういう
オーストリーにてはドナウ下りを試みしが、景色の變化少なく、頸聯(けいれん)は、
やや誇大の表現なるも、風雅なる味はひはそれなりに豐かにて、堪能し
つつ今宵泊る古城のホテルへと向かふ。
周遊閲一旬 周遊 一旬を閲し
乘舫碧流津
舫に乘る碧流の津
含日葡萄熟 日を含んで葡萄熟し
映天風景新
天に映じて風景新たなり
孱顏似巫峽
孱顏は巫峽に似て
窈窕勝萊茵
窈窕は萊茵に勝る
今夜古城宴
今夜古城の宴
共成仙境人
共に仙境の人となる
[眞]
○ 平成九年九月十日作
*頸聯 律詩の第五・ 第六句に當る兩句を言ふ。
*一旬 十日間。
*孱顏 山高く嶮しきさま。
*巫峽 長江上流にて四川省と湖北省の境にある三峽の一つ。
*窈窕 山水などの奧深きさま。東晉の陶淵明「歸去來辭」に「已に窈窕として以て壑(たに)を尋ね」とあり。