『歐州紀行』 其の十七
又 いう
グロス・グロックナー山の頂上近く、且處どころ氷河殘る。やがて終點。
フランツ・ヨーゼフ皇帝の名を取りし山小屋にて休む。氷河の流れ止り
し所。野性のマーモットむくむくと崖下に來る。空あくまで青し。至福
の一日なりき。
隨高樹少改山形 高きに隨ひ樹少に山形改まる
處處陰岡白雪停
處處の陰岡に白雪停まる
遙嶺登登八千尺 遙嶺登登八千尺
萬年氷上一天青
萬年氷上一天青し
[青]
○ 平成九年九月五日作
*又 重ねて。前作の續詠。
*マーモット リス科の動物。體長五○〜八○糎。毛色は褐色にて顏より背は稍黒し。アルプス草原の巣穴に棲息す。
*陰岡白雪停 左思の「招隱」に「白雪陰岡に停まる」とあり。
*登登 登り續けるさま。
*八千尺 アルプス山脈の高さ。