『歐州紀行』 其の一
倫敦漱石記念館 ロンドンそうせき きねんくわん
贈館長恆松郁生君
ぞう くわんちゃう
つねまつ いくを くん
中國旅行は囘を重ぬること四十數囘、詩跡と言はるゝ處は略盡くせり。されば今度は
歐州を廻り、その文風に觸れんと企つ。最初の訪問は英國なり。倫敦にては櫻美林大
英文科卒業生の恆松君獨力にて漱石記念館を經營しあり。同君は能く地元に融け込み
て活動す。それゆゑに今日の成功あり。
壯心早入英都裏 壯心早に入る英都の裏
盡力搜收鴻迹全 力を盡くして鴻迹を搜收すること全し
遺業仍留百年後 遺業仍ほ留む百年の後
文豪風貌頼君傳
文豪の風貌 君に頼(よ)りて傳ふ
[先]
○ 昭和五年九月八日作
*英都 倫敦。
*鴻迹 大いなる事蹟。
*文豪 夏目漱石を云ふ。