『禹域遊吟』 その九十七
靈渠 れいきよ
二千年前の運河は今に灌漑の用を果し、清冽なる水豐かに流る。ここに
思はぬ時を過せし故、中食をここにてとることに決す。ふと村娘の我を
招くを見る。引き寄せられ、娘の食堂にて蛙料理を食せり。
渠通碧水越山西 渠は碧水を通ず 越山の西
南北分流漸古堤 南北に分流して古堤を漸(ひた)す
日午村娃頻引客 日午 村娃(そんあ)頻りに客を引き
緑陰野店供田鷄
緑陰の野店に田鷄(でんけい)を供す
[齊]
○ 昭和六十一年九月
*靈渠 秦の始皇帝のころ開きし最古の運河。廣西壮族自治區興安縣の西。湘江と珠江
とをロックゲイト式にて通ず。
*村娃 美しき村娘。
*田鷄 食用蛙。