『禹域遊吟』 その九十六
廣州六榕寺 くわうしうろくようじ
六榕寺の門の扁額は蘇東坡の字なり。寺の古塔に上れば能く市内を一望す。
古くは謝靈運(此の地にて處刑さる)、近くは孫文。その孫文の記念館を一きは大きく望む。
海南古刹九層樓 海南の古刹九層樓
樓上登來望廣州 樓上登り來りて廣州を望む
康樂遺蹤覓何處 康樂の遺蹤 何れの處にか覓(もと)めん
中山偉構見城頭
中山の偉構 城頭に見る
龕前新刻金文字
龕前(がんぜん)新に刻す金文字
劫後猶餘銅比丘
劫後(こふご) 猶ほ餘す銅比丘
日暮密雲籠世界
日暮 密雲 世界を籠め
驚雷伴雨使人愁
驚雷雨を伴ひて人をして愁へしむ
[尤]
○ 昭和五十八年三月
*康樂 南朝・宋の謝靈運(三八五〜四三三)の爵號。謝靈運は康樂公を襲爵し謝康樂と稱す。
*遺蹤(いしよう) 足跡。
*中山 孫文(一八六六〜一九二五)のこと。
日本に亡命中、中山樵と稱せし故、世に中山先生、孫中山と稱す。廣東省の人。
*龕 寺の塔。
*劫後 文化大革命の後。
*銅比丘(びく) 銅製の佛像。