『禹域遊吟』 その九十四
瑤琳仙境 えうりんせんきやう
浙江桐廬
せきかうとうりょ
杭州より錢塘江に沿ひつつ奧へ入る。桐廬より右折、分水江の上流に、近頃大いなる鍾乳洞を發見、瑤琳仙洞と名付く。鍾乳洞は日本にも數多ある故珍しうはなけれども規模の大なるを見る。此の地を案内せし中年女性の話す北京語極めて流麗なりき。如何なる仔細にて此の地に來りしや。
百千怪狀鬼工成 百千の怪狀 鬼工成る
從口入來先一驚 口從(よ)り入來つて先づ一驚す
山裏奇山洞中洞 山裏の奇山 洞中の洞
石獅石象護仙域
石獅 石象 仙域を護る
[庚]
○ 昭和五十七年九月
*鬼工 鬼神の細工。人間わざと思へぬ勝れし出來榮え。
*從口入 陶淵明「桃花源記」に「便(すなは)ち船を捨てて、口より入る(便捨船、從口入)」とある。