『禹域遊吟』 その九十一

    再訪紹興酒廠 　　　　さいはう せうこうしゅしゃう

  紹興は、いふまでもなく酒の産地。町に大いなる酒醸工場あり。工場の前や中には、素焼の甕うづ高く積み上げ、酒香かをる。二度目の訪問にて、工場長に呈し たるもの。

柳絮飛時黄酒香  柳絮飛ぶ時 黄酒香し
酒香引客毎来嘗  酒香 客を引いて毎（つね）に来たり嘗めしむ
前度劉郎不忘味  前度の劉郎（りゅうらう）味を忘れず
又來嘗盡酔心長  又來たり嘗め盡くして 酔心長し
                                                        [陽]
○ 昭和五十七年九月        
＊前度劉郎   一たび去りて又重ねて來る者をいふ。唐の劉禹錫左遷され十數年後、再び 都の玄都觀に遊びし時、前囘咲き誇りゐし桃の樹の全てなくなりしを見て 詠みたる詩に「桃を種（う）うる道士何處へか歸す、前度の劉郎今又來たる」（再遊玄都觀）とあるに據る。