『禹域遊吟』 その八十九
西湖畔聞子規 せいこはんにて ほととぎすをきく
この時は蘇堤に近き旅館に泊る。朝の散歩は蘇堤南端の公園。柳絮飛び、ほとと
ぎす鳴く。ほととぎすよ、いざ歸りなむ、歸りなむと如何に鳴くも、我歸るを欲
せずといふが、後半の意なり。
曉歩湖堤柳絮霏 曉に湖堤を歩すれば柳絮 霏(ひ)たり
破煙何處杜鵑飛 煙を破りて何れの處にか杜鵑(とけん)飛ぶ
任他吐血幾囘叫 任他(さもあらばあれ)血を吐きて幾囘か叫ぶを
醉景遊人不欲歸
景に醉ふ 遊人 歸るを欲せず
[微]
○ 昭和五十九年五月
*子規 ほととぎす。
*杜鵑  ほととぎす。蜀王(望帝)位を讓りて他郷に去り、死後その魂化して杜鵑となると傳ふ。
血を吐くごとき悲痛なる聲にて鳴き、鳴き聲は不如歸去(bu ru guiqu)歸るに如かず
と聞こゆるといふ。