『禹域遊吟』 その八十三
重到寒山寺 かさねて かんざんじに いたり
訪性空上人不遇 せいくうしやうにんを とふもあはず
蘇州寒山寺の性空上人とは、最初の訪問時(昭和五十六年四月)に詩の応酬
をして以来の交はり。此度の旅は生憎御留守にて、傍の僧に此の詩を託して
去る。然るにその夜、ホテルに「留守にて失禮」といふ御返しの詩、蘭の墨
繪と共に屆く。
重尋詩蹟入呉中
重ねて詩蹟を尋ね呉中に入る
訪到寒山古梵宮 訪ね到る 寒山の古梵宮
一別三年情不竭 一別三年 情竭 (つ)きず
空望飛錫立春風
空しく飛錫を望みて春風に立つ
[東]
○ 昭和五十九年四月
*呉中 蘇州の古名。
*梵宮
寺。寒山寺を指す。
*飛錫 僧の巡遊。錫は錫杖。ここは上人留守なりしを言ふ。
石川老友曾相逢 石川老友曾て相逢ふ
三歳久違共改容 三歳久しく違ひて共に容を改む
君笑老僧失禮出
君は笑ふ 老僧の失禮し出すを
老僧長慕芝蘭風
老僧長く慕ふ 芝蘭の風
(性空上人の詩。蘭の繪に贊として書きつけしもの)