『禹域遊吟』 その七十九
無 錫 むしゃく
無錫は太湖北岸の町。風光絶佳、湖岸の湖濱賓館に泊れば、その眺め譬へやう
もなし。眼下には范蠡
(はんれい)ゆかりの蠡園が廣がる。夜は湖中を行く船の
汽笛旅情を誘ふ。
江南勝地水爲郷
江南の勝地 水 郷と爲る
膏米銀魚泉酒香 膏米(かうまい)銀魚 泉酒香し
請看太湖三萬頃 請ふ看よ 太湖三萬頃(けい)
溶溶誘客入風光
溶溶客を誘(いざな)ひて風光に入らしむ
[陽]
○ 昭和五十六年三月
*范蠡 春秋時代、越の功臣。越王句踐を助けて呉王夫差を討ち會稽の恥を雪ぐ。後、扁舟を泛べて去る。
*水爲郷 水郷地帶。孟浩然「送杜十四之江南」詩に「荊呉相接して水郷と爲る」の句あり。
*膏米 美味なる米。
*銀魚 魚の名。白魚の一種。
*泉酒 無錫にある「天下第二泉」の水にて釀したる酒。
*三萬頃
太湖の湖面をいふ語。一頃は百畝。
*溶溶 廣大なる樣子。。