『禹域遊吟』 その七十四
自滬城向金陵車中 こじゃうより きんりやうに むかふ しゃちゅう
上海より南京への汽車の旅は江南を縱斷す。生憎の春雨。未だ花も少なし。
「千里鶯啼いて……」といふ風情なし。かかる折は酒を飮みてまどろまむ。
蕭蕭雨打客窓斜
蕭蕭の雨は客窓を打つて斜なり
一路江南不見花 一路江南 花を見ず
唯有無聊壺酒 唯 無聊半壺の酒のみ有りて
強催醉夢睡行車
強ひて醉夢を催(うなが)して行車に睡る
[麻]
○ 昭和六十二年三月
*滬城 上海の別稱。
*金陵 南京の古名。
*蕭蕭 雨や風の音の物寂しき樣。