『禹域遊吟』 その六十八
東林寺 とうりんじ
彼の慧遠(ゑをん)法師の開きし古刹東林寺は、堂塔既に新構なれども舊に
依る如し。想像せしより小さき虎溪橋を渡れば、黄牆を繞らせて山門開く。
夕べの勤行終りて迎へ出で來りし和尚に香爐峰を尋ぬれば、南の一峰を指
さす。
新開堂宇舊時容
新開の堂宇は舊時の容
梵唄聲中響晩鐘 梵唄(ぼんばい)聲中 晩鐘響く
客問香爐何處是 客は問ふ 香爐 何れの處か是なると
山僧笑指屋頭峰
山僧笑つて指さす 屋頭の峰
[冬]
○ 昭和五十六年十月
*梵唄 佛教の經文に節をつけて讀むこと。
*香爐 廬山の香爐峰(江西省九江縣の西南)。白樂天の「香爐峰下新卜山居草堂初成偶題東壁」
詩に「遺愛寺の鐘は枕を欹てて聽き、香爐峰の雪は簾を撥げて看る」の句あり。