『禹域遊吟』 その六十五
自武漢向廣州車中 ぶかんよりくわうしうへむかふしゃちゅう
武漢より廣州へは鐵道にて戻る。岳陽を通りし時恰も夕暮。洞庭湖を
一目見んものと目を窓外に凝らす。
車上稍寒酒易醒
車上の稍寒 酒醒め易し
楚雲漠漠幾長亭 楚雲漠漠たり 幾長亭
驛僮報客岳陽近 驛僮客に報ず 岳陽近しと
滿眼暮煙望洞庭
滿眼の暮煙 洞庭を望む
[青]
○ 昭和五十四年一月
*楚雲 楚の地方(湖北・湖南)を蔽ふ雲。
*漠漠 遠く遥なる樣子。又、雲の連なる樣子。
*長亭 十里ごとに置かれし宿場。
*驛僮 驛員。此處は列車の乘務員。