『禹域遊吟』 その六十四

   陽歸元寺    かんやうきげんじ  
     
  文革後は何處の寺も人影なく寂れゐたり。 陽の名刹
  歸元寺を訪ふに和尚、人民服に人民帽にて古書を賣る。

   鐘磬不聞香氣除  鐘磬(しょうけい)聞かず 香氣除かる
  
蕭條冬日陽閭  蕭條たる冬日   陽の閭(りょ)
 
 藍衣破帽老  藍衣破帽の老在り
  
大佛堂前賣古書 大佛堂前 古書を賣る
[魚]


○ 昭和五十四年一月        

 *鐘磬 釣り鐘と磬(の音)。奏樂の基本となるもの。磬は石あるいは玉にて作りし「へ」 の字形の打樂器なり。臺に吊して打鳴らす。
 *香氣除かる  寺院に立込 むる香の匂ひ消ゆ。
 *蕭條  もの寂しき樣子。
 *閭 村里。


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