『禹域遊吟』 その六十三
長江夕照 ちゃうかうせきせう
武漢にて長江の渡船に乘り往還す。川幅は二粁ほどか。武漢長江大橋は
夕陽の中に
黒々と横たはる。この橋を背後に見ぬやうにして往時の舟行
を想像す。
來問漢陽渡 來りて問ふ 漢陽の渡(わたし)
登舟對晩晴 舟に登りて 晩晴に對す
霜風雲夢澤 霜風 雲夢澤(うんぼうたく)
寒浪武昌城
寒浪(かんらう) 武昌城
鳥舞騷人跡 鳥は舞ふ 騷人の跡
煙牽客子情 煙は牽く 客子(かくし)の情
斜暉大橋上 斜暉(しゃき) 大橋の上
長照水東征 長(とこしへ) に照す 水の東に征くを
[庚]
○ 昭和五十四年一月
*漢陽 湖北省にある町の名。漢水と長江の合流點の南にあり、長江を隔て北に漢口あり。
*晩晴 暮れ方の晴天
*雲夢澤 昔、楚の國にありし大沼澤地。湖北省一帶をいふ。
*騷人 詩人。
*客士 旅人。
*斜暉 夕陽。