『禹域遊吟』 その五十四
屈子祠堂 くっししだう
汨羅(べきら)江に臨みて屈原のやしろ屈子祠あり。二千年前、此處にて身投げ
せし屈原を、村人、恰も昨日死せるかの如く説くに感動す。求めに應じ、一詩
を詠む。
屈子祠堂尋汨羅
屈子の祠堂 汨羅に尋ぬ
騷人感慨此何多 騷人の感慨 此に何ぞ多き
二千年後海東客 二千年後 海東の客
低唱滄浪漁父歌
低唱す 滄浪漁父の歌
[歌]
○ 昭和五十八年三月
*屈子 屈原(前三四三〜前二七七?)、戰國時代楚の人。楚辭を集大成す。人の嫉みを受けて
追放され、汨羅に身を投げ自殺す。
*騷人 詩人をいふ。騷は、憂の意。
*滄浪漁父歌(さうらうぎょほのうた) 『楚辭』漁父の中にて漁父の歌ひし歌。「滄浪の水清(す)まば
以て吾が纓(えい)を濯ふべし、滄浪の水濁らば以て吾が足を濯ふべし」。