『禹域遊吟』
その四十六
巫 山 ふざん
二度目の船旅は三峽を上る。夷陵(いりょう)は今の宜昌。ここよりいよいよ三峽へ入りゆく。
夷陵解纜到巫山
夷陵に纜(ともづな)を解きて巫山に到る
三百里程 朝暮間 三百里程 朝暮の間
永叔羇愁子美涙 永叔の羇愁(きしゅう)
子美の涙
今人唯聽水潺湲
今人
唯聽く水の潺湲(せんくわん)
[刪]
○ 昭和六十年八月
* 巫山 四川省巫山。「巫山の夢」「朝雲暮雨」の成語にて有名なる地。
* 夷陵
古縣名。今の湖北省宜昌市。
* 永叔
北宋の歐陽修(一○○七〜一○七二)の字。景祐三年(一○三六)峽州夷陵縣の縣令に貶さる。
*
羇愁 旅の愁ひ。旅愁。
* 子美
杜甫(七一二〜七七○)の字。晩年、■州(四川省奉節縣)にて二年間暮す。
* 潺湲 水流るゝさま。さらさら。