『禹域遊吟』
その四十五
忠州途中 ちゅうしうとちゅう
忠州は白樂天の長官として赴任せし地。また杜甫「旅夜書懷」を詠じたる所としても知らる。その詩に「星垂れて平野闊(ひろ)し」とうたふが、いづこにも平野らしきものなし。川幅の幾分廣き程度なり。
峽寛時遇白帆舟
峽寛(ひろ)く 時に遇ふ白帆の舟
兩岸如氈水如油 兩岸は氈(せん)の如く 水は油の如し
滿眼春光午風裏 滿眼の春光 午風の裏
樓船徐下古忠州 樓船徐(おもむろ)に下る 古忠州
[尤]
○ 昭和五十八年三月
* 忠州 四川省忠縣。
* 氈 もうせん。けむしろ。
* 樓船 やぐらを組みし二階造りの船。ここは遊覽船をいふ。
漢・武帝の「秋風辭」詩に「樓船を汎べて汾河を済り」の句あり。