『禹域遊吟』 その四十三
薜濤井 せつたうせい
成都の錦江に沿ふ望江樓公園の中に井戸あり、薜濤曾てこの水を汲みて紙を漉くといふ。その名を今に傳ふる「薜濤箋」を賣店にて求めしが、その品甚だしくは良からず。
叢竹葱葱井水清
叢竹葱葱(そうそう)井水清し
校書故宅傍江城 校書の故宅 江城に傍(そ)ふ
千年傳得錦樓下 千年傳へ得たり 錦樓の下
新樣彩箋才女名 新樣の彩箋 才女の名
[庚]
○ 昭和五十八年三月
*薜濤 七六八〜八三一。 中唐の女流詩人。蜀(四川省)で藝妓となり、元、白樂天等の詩人と詩の應酬をせりといふ。
*校書 薜濤をいふ。節度使・韋皋 詩才を愛する餘り薜濤に校書郎の官職を與へんとせしことによる。
*彩箋 薜濤箋。薜濤の考案せしといふ深紅の詩箋。