『禹域遊吟』 その三十六
吐魯番途中 トルファンとちゅう
敦煌から夜行列車に乘りて西の方吐魯番を目指す。朝、目覺めて見る窓外の光景は、聞きしに勝るものなり。正に『山海經(せんがいきゃう)』の云ふ「大荒」の世界なり。
絶無草木況人煙 絶えて草木無し 況んや人煙をや
赤野黄岩極目邊 赤野 黄岩 極目の邊
夕越三危何處去 夕べに三危を越えて何れの處にか去(ゆ)く
車行山海大荒天
車は行く 山海大荒の天
[先]
○ 昭和五十九年九月
*赤野 地名。崑崙(こんろん)山の西にある、と云はれる。古の玉の
山地。
*三危(さんき) 地名。諸説あるが、ここは甘肅省敦煌市にある三危山。
*山海 古の地理書『山海經』を云ふ。十八篇目の中に、大荒東經、大荒
南經、大荒西經、大荒北經等あり。