『禹域遊吟』
その二十九
昭陵見孫遲館長 せうりようにて
そんちくわんちやうに まみゆ
三度目の訪問。第二句は、李白の孟浩然をうたひし詩句を用ふ。第四句は、孫遲館長を唐の廣文館博士鄭虔になぞらふ。かかる邊鄙の地に、多年文物を守りゐる床しき人物なり。
萬里重遊秦地雲 萬里 重ねて遊ぶ秦地の雲
此行偏欲揖高芬 此の行 偏(ひとへ)に高芬に揖せんと欲す
九山下春風裡 九(そう)山下 春風の裡
喜見陵前鄭廣文 喜び見(まみ)ゆ 陵前の鄭廣文
[文]
○ 昭和五十九年三月
*揖高芬(かうふんにいふす) 名高く立派なる人に挨拶す。李白の「贈孟浩
然」詩に「徒に此に清芬に揖す」の句あり。
*鄭廣文 唐の鄭虔のこと。玄宗その才を愛し、特に「廣文館」を置きて
鄭虔を博士とせしことによる。詩書畫に巧みにして「鄭虔三
絶」にて知らる。李白、杜甫らと交際す。