『禹域遊吟』
その二十八
贈孫遲先生 そんちせんせいにおくる
昭陵博物館長 せうりようはくぶつくわんちやう
唐の太宗の昭陵の麓に功臣李勣(り・せき)の墓あり。ここに博物館設けられ、近在より出土せし名碑集められて書道家垂涎の所となれり。館長の孫遲氏は純朴の爲人、書家としても知らる。かつて昭和五十五年に訪れし折面識を得、これが二囘目の邂逅なり。
挺世高名夙所聞 世に挺(ぬき)んずる高名 夙(つと)に聞く所
曾經偶坐話斯文 曾經(かつて)偶坐して斯文を話(わ)す
再遊今日昭陵下 再遊 今日 昭陵の下
柳絮飛時又見君 柳絮(りうじよ)飛ぶ時 又君を見る
[文]
○ 昭和五十七年五月
*偶坐 向ひ合ひて坐る。
*斯文(しぶん) 儒教の學問。轉じて優雅な詩や書、文學等を云ふ。
*柳絮 柳の綿。柳の種子の上に生ずる白き毛状のもの。熟すると綿の
如く、ふはふはと飛ぶ。