『禹域遊吟』 その二十七

昭陵途中      せうりようとちゆう

   西安訪るることしばしばなり。郊外に帝王・王侯の陵墓多し。往時松柏の鬱蒼と蔽ひたらむも、今はいづれの陵墓も裸のままの姿を黄土の平原に晒し、夕日の中、恰も疣(いぼ)の如く迫り出せり。

車行西郊路 車行く西郊の路
滿目土原 満目黄土の原
地上何所見 地上何の見る所ぞ
墳塋大小屯 墳塋(ふんえい)大小屯(あつま)る
小有不滿丈 小は丈に満たざる有り
大似百尺豌 大は百尺の豌に似たり
知是誰人有 知る是れ誰れ人の有ぞ
唐王者 漢唐王者尊し
龍種豈異凡 龍種豈(あ)に凡に異らんや
繼祀絶子孫 祀(まつり)を継ぐに子孫絶ゆ
明器藏墓室 明器は墓室に蔵せらるるも
被盜恐無存 盜に被(かか)りて恐らくは存する無からん
大唐且泯滅 大唐すら且つ泯滅す
榮爵況足論 栄爵況んや論ずるに足らん
殘碑空留跡 残碑空しく跡を留め
怨深千載魂 怨は深し 千載の魂
羣鴉墳上鳴 群鴉墳上に鳴き
蒼鼠自穴奔 蒼鼠穴より奔る
附地如贅疣 地に附きて贅疣(ぜいゆう)の如く
影黒くして黄昏に映ず
                                        [元]

○ 昭和五十七年五月
* 豌 平地に小高く積土せる所
* 龍種 帝王の子孫
* 明器 副葬品
* 贅疣 いぼ
   

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