『禹域遊吟』 その二十一
靈寶縣老君祠 れいはうけんらうくんし
廟古唯餘言大徳清順治兩碑 廟古り唯元の大徳、清の順治の兩碑を餘すのみ
古い函谷關を尋ね、奧深く村へ分け入りたるに、思ひがけず老子を祀し古き廟に行き當る。現在は村の小學校なり。往時を偲ぶものは二つの石碑のみ。子ら余を忽ち取り圍み、さながら桃源を訪れし漁夫の心地す。
老君傳道地 老君 傳道の地
函谷古關村 函谷(かんこく)古關の村
廟見桐兼棗 如今 廟に見ゆ 桐と棗(なつめ)と
碑知清與元 碑に知る 清と元と
青牛何處去 青牛何れの處にか去(ゆ)く
玄牝此中論 玄牝(げんぴん)此の中に論ず
童稚笑迎客 童知笑ひて客を迎ふ
定無令尹孫 定めし令尹の孫なる無からんや
[元]
○ 昭和六十一年三月
*老君 老子の尊稱
*大徳 元の年號。一二九七〜一三○七。
*順治 清の年號。一六四四〜一六六一。
*青牛 老子乘りしといふ牛。晩年、青牛車に乘りて西域に入りしといふ。
*玄牝 萬物を生ずる道をいふ。『老子』六章。
*童稚 をさなき者。子供ら。
*定無 必定、さやうならむの意。
*令尹 函谷關の役人、關令尹喜。老子に請ひ『道徳經』五千言を殘しもらひし
といふ人物。