『禹域遊吟』
その十六
龍 門 りゅうもん
龍門は今や觀光客溢るゝばかりなるが、余の初めて訪れし一九七七年當時は人至つて少なく、のんびり石佛を見物し囘りぬ。入口に近き所に幾らか温度高き水湧く故か、土地の婦人等洗濯に來る光景も目にしけり。
氣霽氷融楊柳煙
氣霽(は)れ氷融けて 楊柳 煙る
龍山伊水早春天
龍山伊水 早春の天
温泉湧處群村女
温泉湧く處 村女群れ
嬉洗寒衣石窟前
嬉(たはむ)れて寒衣を洗ふ 石窟の前
[先]
○ 昭和五十二年十二月
*氣霽氷融 都良香(みやこのよしか)の句に「氣霽れて風は新柳の髮を梳
(くしけず)り、氷消えて浪は舊苔の髭を洗ふ」とあり。
*寒衣 冬の着物