『禹域遊吟』
その十三
蒲州城址 ほしう じゃうし
唐の元 (げんじん)の「鶯々傳」の舞臺となりし普教寺は、今は廢寺なり。
ここより鸛鵲樓(くわんじやくろう)跡までは
遠からず。しかるに案内人
行き澁る。強ひて現地を案内せしむるに、何も無し。
聞くところによれば、ダムの失敗により町の水歿せしなりと。
澁るわけなり。
眼前無物不荒涼 眼前物として荒涼ならざる無し
聞説河流淹此郷 聞説(きくならく) 河流 此の郷を淹(ひた)すと
廢寺塔頭空望處
廢寺の塔頭 空しく望む處
群飛鳥雀入斜陽 群飛の鳥雀
斜陽に入る
[陽]
○ 昭和六十一年六月
* 蒲州 今の山西省永濟縣。
* 廢寺
荒れ廢れし寺院。普教寺をいふ。山西省永濟縣西北
十二粁にあり。