『禹域遊吟』 その十二
運城途中 うんじゃう とちゅう
山西省南部のこの邊りは、『詩經』の魏風の世界なり。貧しき土地にしがみつきて
生きし當時の面影、今はなし。水利灌漑の發達により、見渡す限りの沃野廣がる。
緑樹劃村開一疇 緑樹 村を劃して一疇(ちう)を開く
中條山麓古時州 中條(ちゅうじゃう) 山麓 古時の州
誰言舊是魏風地 誰か言ふ 舊(もと)是れ魏風の地と
滿眼黄雲麥熟秋 滿眼の黄雲 麥熟の秋
[尤]
○ 昭和六十一年六月
* 運城 地名。山西省の西南部。
* 中條山 山名。山西省永濟縣の東南。西に華岳、東に太行山あり、その中なる故、
中條と言ふ。
* 魏風地 魏風は『詩經』の篇名。魏は今の山西省南部の一帶。貧しき暮しを詠ひし
もの多し