『禹域遊吟』
その十
五當召廟歸途 ごたうせうべう きと
包頭 パオトウ
包頭より北へ、ラマ教寺院の五當召廟を訪ふ。曾ては千餘のラマ僧を擁せし廟は、今や殆ど人影も無し。歸途、趙の武靈王築きし長城の傍を通る。しばし夕陽の中に佇み感慨に耽りたり。
秋風百里入青山 秋風百里
青山に入る
乘興深尋古刹還 興に乘じて深く古刹を尋ねて還る
中路停車趙城上 中路車を停む 趙城(てうじやう)の上(ほとり)
牛羊歸下夕陽間 牛羊歸り下る 夕陽の間
[刪]
○ 昭和五十八年八月
* 趙城 趙は國の名。春秋時代の末、韓、魏、趙が晉を三分して獨立す。
山西省北部。ここは、その趙の土壁をいふ。
* 牛羊 この句は包頭近くの大自然をうたひし「敕勒歌」の「天は蒼蒼たり、
野は茫茫たり、風吹き草低れて牛羊見る」を踏まふ。
なほ、『詩經』王風・君子干役に、「日の夕、羊牛下り來る」とあり。