平成新選百人一首 (第一)

  八雲立つ出雲八重垣妻籠みに   八重垣作るその八重垣を

                                  須佐之男命(すさのをのみこと)=古事記所載

           やくもたつ いづもやへがき つまごみに
                             やへがきつくる そのやへがきを

  出雲の地に、新妻を迎ふる宮を造らむとすれば、雲の幾重にも立ち上り

八重垣を造るが如し。見事なる八重垣を――の意なり。

  天照大御神の御弟須佐之男命は、高天ヶ原で狼藉を働き、追はれて出雲に降

り給ひし後、やまたのをろちを退治して、生贄とならんとせし櫛名田姫を救ひ、

妻に迎へし折の喜びを歌ひしものなり。

 新婚の二人を壽ぐが如く雲湧き上がりて八重垣をなす。そのめでたさを、

繰り返す「八重垣」にてたたみかくる如く朗々と歌ひ上げたり。

古事記冒頭 に記載され、文獻に記されし日本最古の和歌なり。和歌の第一號が、

新婚の喜びを歌ひしものなるは、洵に慶賀すべきものに非ずや。


〈作者〉須佐之男命 伊邪那岐命 (いざなぎのみこと)伊邪那美命(いざなみ

のみこと)の御子。古事記、日本書紀に荒ぶる神として描かれしが、出雲に降

りて後は善神となる。大國主命(おほくにぬしのみこと)の御父。



解説原文 宇野 精一(國語問題協議會會長)


目次へ

詞藻樓表紙へ               文語の苑表紙へ