文語日誌
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文語日誌(平成十二年八月)
     
                  谷田貝 常夫

匂ひの好惡と遺傳子
平成十八年十二月二日(土)




 昨夜のテレビにて女の嗅覺につき面白き現象あるを知る。二十人ばかりの男性、粉状の白きものの入れる小瓶を持ちて立ち竝びをりしところへ女性登場、男性の瓶を次々と嗅ぎて己の好惡を告ぐ。白きものはその男性の匂ひを發する粉なる由。都合三名の女性の驗しに示せる好惡に明瞭なる傾向あり。すなはち、女性の一番惹かるゝ匂ひは、己の遺傳子の組合せより來る匂ひからは一番遠きものにて、逆に己に近き匂ひの男性を「臭し」として嫌ふとか。
 子供を産み育つる女性は、己が子供を樣々なる局面にて守らむがために嗅覺非常に鋭敏なることは定説なり。食物の腐敗なども敏感なる嗅覺にて察知す。「臭し」「汚らし」は我が細君の余に對し再三發することばにて、この定説の身を以て諾はるゝ所以なり。
 女性が男性を選ぶに匂ひの好惡が大なる要素なるは、無意識の世界のことならむ。されどかかる選擇、何が故かなれば、世代の受繼ぎにあたり、多種の遺傳要素を組込たる子の方が、抵抗力一段と強く、生き延び易きためと言はる。かかる複雜なるメカニズムの本能に組入れられたる不思議、誰が意志ならむか。


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