文語日誌
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文語日誌(平成十八年二月十七日)
     
                  谷田貝 常夫

平成十八年二月十七日(金)




 
〈分離と連結〉
 東京を離るゝに從ひて空は晴れ陽光にあふれたれど、高崎を過ぎ、列車の山地に入りかゝるにつれ、隧道と隧道の合間に見受くる空は曇りがちとなり、長き大清水トンネルを拔けたればホワイトアウトの世界に一變、いはゆる雪國の世界となれり。すぐに乘換へ驛湯澤に到着す。



 我の乘り來たれる列車の後八輛はここより別れてガーラ湯澤に向ふ由、その連結の離るゝ樣を見聞せんとの好奇心に驅られて繋ぎ目のところまで歩を運ぶに、見物客の十數人はをれども鐵道員の一人をも見ず。前後の列車は流線形の嘴と嘴をつけたるまゝにて發車の時刻とはなれり。いざやと目を凝らするに、當然のごとくに連結ははづれ先行車は前進す。動くにつれ連結のために觀音に開かれをりし窓はするすると閉ぢたり。一昔前にては一人ならずの鐵道員線路に下り、プラットフォームにて連結を見屆けをりし鐵道員は小旗を打振りて、窓より首を突出して振返りをりし運轉者に合圖を送りたるものなり。萬事が自動化せられたる連結分離の樣斯くのごとし。



 乘換へに半時間ほどの隙あればコーヒーを喫せんと改札口に向ふに、客長き列をなす。驛員の對應の緩慢なる故ならむかと多少腹立ちて竝びをるに、驛員との話着きたるか若き男の廻れ右してこちらに向ふに、十人ばかりの男ども連れて動けり。ふと氣づくに、ある男に尾の生えたるかと錯覺するに、上着の下より見えたるは黒き綯ひ繩にして、そが次の男につながれをるに愕然とす。男たちの頭の皆坊主なるにも注目せられて、この次々と尾をつけし一團の囚人なるに氣づく。いはゆる護送の途次ならむか。目の遣り場に困りて早々にその場を離れ階段を降る。



 和倉温泉を最終目的地とする北越急行ほくほく線のプラットフォームには大なる手水鉢の如きものあり。ここは温泉地の湯澤なればそこには水ならで湯を湛ふ。いはゆる手湯なり。他の季節ならばたゞに面白き趣向と手を浸けるのみなれど、心も寒き折の、霏々として白きものの舞ひ跳ぶ寒さの中なれば、兩手の受ける感觸一段と勝れり。指より掌、掌より手首、手首より肘、肘より二の腕、さらには肩へと温泉ならではの微妙なる暖かさの傳はりて、さて兩の肩よりの温かみが體内にて合體し、胸腹を潤す。至bニもいひうべき感觸なりき。



 僅々三十分がほどの、分離と連結、合體の、旅ならではの體驗をせり。


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