巴里のブラッスリー
文語日誌(平成二十五年十一月)
土屋 博
(注記)飽くまでも二十年前(平成五年)の手記をもとにして、その文語化を試みたるものなれば、最新情報には非ざる點、留意せられたし。
JULIEN(ジュリアン)
十區。名店はかくなる場所にもとの意外感、えも言はれず。サービスいと氣持ちよく、日本よりの遠來の客の欲する典型的なる「佛蘭西料理」概ね揃ふ。近邊に所在せるFLOよりも雰圍氣格段によし。最も巴里らしき店として推獎に値す。内裝に見るべきことども多し。
LE BAR A HUITRES(バー・ア・ユーイットル)
三區。生牡蠣を食すとせば、この店に限るべし。大いに流行りたれば、牡蠣に當たる心配先づ無し。プラトー・ジアント二九五フランは、他店に比べて遙かに豪華なり。チェーン店ありて、十四區、五區の店も訪ひたれど、差殆ど無し。
BOFINGER(ボファンジェ)
四區。巴里にて一番古きブラッスリーとぞ。雰圍氣一級なるも、値段は格安なり。ワイン附定食一六六フランは極めて合理的なり。オニオングラタンスープ、クレームブリュレのオレンジ味など印象に殘る。
LA COUPOLE(クーポール)
十四區。歴史ある店にて、常に滿席に近き状況を永く維持せるは見事といふ外之なし。店の眞ん中に像ありて、ゆつくりと囘轉する樣子は見所の一つ。海の幸盛り合はせ一九〇フランを注文する客多し。
FLO(フロ)
十區。東京にも支店のあるFLO、巴里の大衆に愛せられたる店なり。奧まりたる道に面する故、入口は人目に附きにくし。
BOEUF SUR LE TOIT(ブッフシュールトワ)
八區。シャンゼリゼ界隈にては安心の出來る店。雰圍氣、味とも揃ひ一定の水準を超ゆ。熱きフォアグラ、海の幸盛り合はせなど無難。
LE DOME(ル・ドーム)
十四區。海の幸、魚料理には定評ある名店にして永く巴里市民に愛せらる。過去に有名人の坐りたる座席にプレート有るは興味深し。日曜日に營業したるは實に貴重なり。
FOUQUET‘S(フーケ)
八區。シャンゼリゼ通りにて赤テントが有名なる傳統の店なり。ラマルクの小説「凱旋門」にも登場す。LIDOに行く際には好位置なり。一つ星は無くなるも、料理の質こそ良けれ。有名人のかつて坐りたる座席にはプレートあり。ポ・ド・クレームは、多くの壺竝びて壓倒せらる。
CHEZ EDGARD(シェ・エドガール)
八區。シャンゼリゼの華やかなる賑はひ、店内にまで及べり。なほ、中高年女性の雇用に貢獻大なる店となむ見ゆる。
LEON(レオン)
一區。ベルギーはブラッセルの有名店の支店なり。ムール貝のバケツ入り白ワイン蒸しを註文するならば此處に如かず。最近巴里にても支店數は増えつつあり。値段安くしてボリューム豐かなる故なるらむ。
ANDREE BAUMANN(アンドレ・バウマン)
十七區。流行りて居る雰圍氣ぞよき。海の幸は普通レベルなり。シュークルートを注文する客多く、確かに旨し。
HUITRERIE DU CONGRES(ユーイトゥレリー・デュ・コングレ)
コンコルド・ラファイエットやメリディアンのすぐ近くに所在。ともあれ、流行りてゐる店はいと樂し。
CHARLOT 1ER(シャルロ・プルミエ)
十八區。繁盛せり。海の幸にて有名なれど、ブイヤベース一七八フランも推獎したく、スープを足すのサービスは嬉し。
L‘ARBUCI(ラルブッシ)
六區。ブラン兄弟の新しき店なれど、向後有名とならむ。晝の六八フランの定食はローストビーフとローストチキンの組合せなりき。ジャズ好きの人向き(木曜より土曜の夜十時半より開始。)
LE PROCOPE(プロコープ)
六區。一六八六年創業と極めて古く、ナポレオンやフランクリンも訪ひしとぞ。食前酒に梅の入りたるブリュット・ド・ゾッピを供す。料理は竝み。
BRASSERIE LIPP(ブラッスリー・リップ)
六區。有名人の屡來訪する店として有名なり。やや暗く地味なる印象。エスカルゴは身こそ大きけれ、鹽辛さに閉口す。
AU PIED DE COCHON(オー・ピエ・ド・コション)
一區。豚の足(ピエ・ド・コション)もあれど太りなむ料理、メニューに多し。二十四時間開きゐるを取り柄とすべき店か。
LE BALLON DE TERNES(バロン・ド・テルヌ)
十七區。オニオングラタンやエスカルゴなど典型的なる佛蘭西料理を求むる觀光客に向く。コンコルド・ラファイエットに一番近し。
LE PETIT ZINC(プティ・ザンク)
六區。サンジェルマン・デプレ教會近くに立地す。料理、サービスは今一つと覺ゆ。
LA TAVERNE(ラ・タヴェルヌ)
九區。アルザス料理。夜七時より生演奏のあるは珍し。シュークルートこそ相應しけれ。
RELAIS D‘ALSACE(ルレ・ダルザス)
一區。ビールを供するブラッスリーにはアルザス料理店多し。
OCEAN PARIS BAR(オセアン)
高級住宅地のヌイーに所在。牡蠣とワインは相性よしと雖も、牡蠣をのみ食し續くれば限界效用遞減するをこの店にて體驗す。
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