文語日誌
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文語日誌(平成二十三年十二月某日)
     
                  土屋 博

北歐の冬の思ひ出
平成
二十三年 十二月某日
      

 四半世紀ばかり前、小生、「北歐のヴェニス」とも呼ばるる瑞典のストックホルムに駐在する機會を得たり。在任中、皇太子殿下竝びに美智子妃殿下の瑞典への公式御訪問ありけり。在留邦人の代表として、我々夫妻、兩殿下に咫尺するの榮に浴したり。當地の氣候に御關心強かりけるにや、兩殿下より各々同一のご質問あり、『冬はさぞかし寒いのでせうね。』と。小生御對へ申すに、『四十年振りの寒波襲來の折りには、晝夜を問はずマイナス十五度以下の日々が一ヶ月ほど續きたり。』と。今に印象殘る一會なりき。
夏には白夜の美しき別天地なれど、冬には太陽ただ地平線を這ふのみにて、午後三時には眞つ暗闇となる誠に酷しき風土なり。それだけに降誕祭における聖歌隊の澄み切りたる合唱、焔ゆらめく蝋燭、家々の窓の飾り附け、生姜入りクッキー、温めたるグレッグ(クリスマス用のお酒)の香りなど格別なるものありき。


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